約 1,207,132 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/437.html
「とりかえっこ」/◆BVjx9JFTno 寝息が、重なっている。 美希たんの部屋。 お母さんが仕事関係の旅行に 行っているので、美希たんの家で お泊まり会になった。 せつなとブッキーは ぐっすり眠っている。 体を起こす。 もうひとつの、起きる影。 寝る前、美希たんとお互いのことを 話してるうちに、エッチな話になった。 美希たんの愛撫で、 悦ぶブッキーの姿。 あたしも、さわってみたい。 あたしと美希たんの心の中に、 悪だくみが生まれた。 とりかえっこ。 美希たんと、寝ている位置を 交代する。 ブッキーの寝顔が、 すぐそばにあった。 たわわな胸が、 パジャマを押し上げている。 裾がめくれ、かわいい おへそが見えている。 ペロッと、なめる。 ぴくんと、ブッキーの体がふるえた。 パジャマの裾から手を入れ、 ブッキーの胸を、わしづかみにする。 手に入りきらないほどの、 たっぷりとした胸。 揉んだり、揺らしたりしながら 感触を楽しむ。 たまんない。 あたしの内腿に、 しずくが垂れる感触があった。 ブッキーの目が、 ぱちりと開いた。 「ちょっ...!ラブちゃ...んん」 唇で塞ぐ。 「んん!...んーっ!」 「ブッキー、あたしとじゃイヤ?」 「ラブちゃん...どうして...」 「だって、あたしもブッキー食べたくなったんだもん」 「でも、私には美希ちゃんが...」 「ほら...」 あたしとブッキーが視線を移した先には 同じように、せつなの唇を塞いでいる 美希たんの姿があった。 「...どして...?」 せつなの声が聞こえる。 「でも、体は反応してるわよ、せつな」 美希たんの指が、せつなの乳首を 優しく弾いている。 パジャマを突き抜けそうなほど、 そこは硬く尖っていた。 あたしの心に、 チクリと痛む感覚があった。 かき消すように、ブッキーのパジャマを たくし上げ、胸に舌を這わせる。 ブッキーの乳首も、硬く立ち上がり、 あたしの舌の上で、ころころと転がる。 「やああん...やめて...ラブちゃん...!」 「でも、ブッキー気持ちよさそうだよ」 「違っ...あうっ!」 「ほらぁ...」 下着の中に滑り込んだあたしの右手は、 茂みの奥にある泉を感じていた。 「美希たん、見てるよ...」 「いや...!いや...!」 激しく首を振るブッキー。 それに反して、右手にはいっそうあふれる感覚。 中指を、入れる。 「ああああっ!」 「ブッキーの感じてる顔、かわいい...」 ちらっと、美希たんの方を見る。 歯を食いしばって、美希たんの愛撫に 耐えているせつな。 せつなの足の間でうごめく、美希たんの手。 蜜が跳ねる音が大きくなっている。 何よ。 誰でもいいの? ブッキーの中に入れた指を、 途中で上に曲げ、上の壁を擦る。 「あっ!あっ!ああん!」 ブッキーの腰が跳ねる。 もう片方の手で、胸を激しく揉みしだき、 唇を舌で舐る。 「イキそうなの?ブッキー...」 「いや...いや...!」 「くっ...あああん!」 聞こえてくるせつなの喘ぎ声が、 大きくなった。 えっ... せつな、イっちゃうの...? ブッキーの中が、 激しく収縮した。 「美希ちゃん!ごめんなさい!ごめんなさい!」 ブッキーが、顔を覆いながら 腰を激しくくねらせ、3回ほど大きく跳ねた。 せつなを見る。 乳首を吸われながら、中を激しく 美希にかき回されている。 「せつな...かわいいわ」 「いや...そんなにされると...もう...!」 「ほら、ラブも見てるわよ...」 「ああっ...!いや!ラブ!見ないで!見ないで!」 せつなの体が弓なりに反り、 大きく痙攣した。 あたしのほおを、 涙が流れている。 せつなが、あたし以外の人に。 あたしだけの、せつなじゃ なくなった。 とりかえっこ、って 軽く始めたけど、 あたしが、人のものを 取るだけじゃ、なかった。 あたしのものも、 人に、とられた。 後悔。 嫉妬。 興奮。 心の中が、めちゃくちゃだ。 ブッキーが、顔を覆って すすり泣いている。 美希たんが、ブッキーを見ながら 泣いている。 せつなが、あたしから目をそらして 泣いている。 4人のすすり泣きが 薄闇の中で響いている。 「...ごめんなさい!祈里!」 「...ごめん!せつな!」 美希たんとあたしは 同時に声をあげ、お互いの 隣に場所を移した。 「ひどいよ...美希ちゃん」 ブッキーの泣きじゃくる声が聞こえる。 「ラブ...こんなのないわ...」 「悪いのはあたしだよ!ホントにごめん!」 すすり泣くせつなを、 ぎゅっと抱きしめる。 「せつなは、あたしのだよ!」 美希たんも、ブッキーを 泣きながら抱きしめている。 「祈里は、アタシのだから!」 「せつな!」 「ラブ!」 「祈里!」 「美希ちゃん!」 泣きながら、夢中でお互いの唇を 吸い合った。 何もかも忘れるように、 夢中で、愛し合った。 声を抑えることもなく、ひたすら お互いの体をまさぐった。 いつもより、強く。 いつもより、深く。 お互いの中で、激しく指が かき回される。 猛烈な興奮の中、あたしは せつなの顔を見つめる。 せつなも目を開き、あたしを見つめる。 「いっしょに...ラブ...!」 「うん...いっしょだよ!」 あたしとせつなは、お互いの目を 見つめ合いながら、激しく跳ねて頂点に達した。 「祈里!アタシもう!」 「美希ちゃん!一緒に!」 美希たんとブッキーも、お互いのを 激しく擦り合わせながら達している。 お互いを寝取られた刺激からか、 興奮がおさまることはなかった。 あたし達は、汗だくになって もう何度目か忘れるほど、体を跳ねさせた。 外が見えないほど、ガラスが曇っている。 むせ返るような熱気と、匂い。 「...ちょっと、クセになるかも」 言った途端、あたしの頭に 3つのゲンコツが落ちた。 複数8は、その後のーー
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/724.html
『PARADOX』/Mitchell Carroll 緑が生い茂る――川はせせらぎ、 青い空には雲がゆっくと流れ、鳥が何羽か群れて飛んでいる。 緩やかにそよぐ風は、木の葉や小さな草花を優しく撫でて揺らす。 ここは、ラビリンス。 かつての機械の山は次第に減り、 暗くグレーがかった世界は、色鮮やかに変貌した。 「――ラブにも、ラブ達にも、見せてあげたいわ....この風景を」 一面のクローバーに彩られた小さな丘で、せつなはつぶやく。 かつて訪れた四つ葉町にも似たような場所があった。 あの大きな丘と比べれば小さいが、 それでも、町全体を眺めることが出来る。 せつなのプリキュアとしての使命は終わった。 アカルンの力を使えない今、ラブたちに会う方法は無い。 奇跡でも起きない限り――。 せつなは家に帰り、また、手紙を書き始めた。 送り先は決まっている....だが、届かない。 届けるすべが無い。 相手に届かない手紙を、時々こうして書いている。 引き出しには、その手紙がもう、溢れている。 「いつまで私はこんなことを....」 手紙のいくつかには染みが付いている。インクが滲んでいる個所もある。 それでも、文字にすることで気が晴れる....こともあれば、 かえって辛い気持ちになってしまうこともある。 その日もせつなは手紙を書いた。 四つ葉町のあの丘で、ラブと待ち合わせる約束の手紙。 手紙を書き終えた頃、空は夕焼けだった。 偉大な太陽が沈んでいく....暖かさとは、しばしのお別れ。 ここのところ、寒さは感じなかった。仲間にだって恵まれている。 だが、別の寒さが、寂しさが、時折彼女を襲った。 どんなに着込んだところで、紛らわせられなかった。 原因は彼女にはわかっている。そしてその解決方法も。 だが、やはりそれは叶わないのだ。 ――少し窓が震えている。 「地震....?」 せつなは窓を見る――その窓から見える光景は.... 空に巨大な黒い渦が現れ、間も無く突風が窓を叩き突ける。 粉々に割れたガラスは部屋中に散らばる。 「イースっ!!大丈夫かっ!?」 「ウェスター!ノックぐらいしなさいよ!」 同じ館に住んでいるウェスターがせつなを心配して ダンベルを片手にやってきた。 「何だあの黒い渦は....!?」 「ええ、凄く嫌な感じがする....」 赤黒い光―― それが一直線にウェスターを貫く。 窓の外からの攻撃。 「グッハァ!!」 「ウェスター!!」 急いでせつなはウェスターの看護に当ろうとした――が、 ウェスターの全身を包んだ不気味な光はせつなを跳ね返した。 「キャッ!?....何、これ....」 「イース....外....窓....」 振り向いたせつなの目に映るもの―― 赤い髪の少女....と、その後ろに、青い髪の少女。 氷のような目。 「お前を倒しに来た、イース」 「誰だっお前達は!」 「冥土の土産に教えてやる。私の名は....霧生薫」 「....霧生満だ」 「なぜわたし達を狙う!?」 「それが命令だからだ。わたし達は命令に従うのみ」 氷のような目....氷のような声....ただ命令に従うのみ.... せつなはかつての自分を見ているようだった。 恐怖――自分が他の者達に与えていたものはこういうものだったのか、と、 一度決着を着けたはずの心の傷がまた膿みはじめた。 「消えろ、イース」 再び赤い閃光――それをせつなは持ち前の瞬発力で躱した。 すぐさま反撃の右の拳を撃ちつけるも、満に易々と受け止められてしまった。 「何だそれは?変身しろ、イース。その姿のままでわたし達を倒そうというのか?」 「なめられたものね....もういいわ。満、さっさとこいつを倒して、次の目的地へ 向かいましょう。――四つ葉町へ」 「何ですって....!?今、何と言ったの!?」 「四つ葉町だ。お前には関係あるまい」 「関係あるわよ!!なぜ四つ葉町を狙うの!?」 「わたし達は命令に従うのみだ。何度も言わせるな」 自分には今プリキュアに変身する能力は無い。 だが闘うすべが一つだけあった。 あの姿には変身したくない。 だが変身しなくては、守れない。 大事なものを守るために―― 「スイッチ・オーバー!!」 「....ほう、余裕だな。その笑みは何だ?」 薫の御指摘どおり――せつなは自分でも驚いていた。 強烈な懐かしさが全身を覆い包む。 無機質な感覚、かつての自分。 「....こんなところ、ラブに見せられないわね」 不敵に笑うと、光の速度で満に掌底を喰らわす。 「グッ....!!」 「....速い!」 プリキュアとしての鍛錬で培ったものが、今もこうして活きている。 「ふふふ、まだこんなものではないぞ!(口調まで....)」 せつなの――いや、イースの乱打が薫に降り注ぐ。 防ぎきれなくなった薫が闇雲に出したパンチは、 虚しく空を切り、イースのカウンターを浴びる。 止めを刺そうとするイースの動きが....止まった。 そして全身から噴出す嫌な汗。 ひとつ大きく鼓動が鳴る。 「場所を変えましょう。ここじゃ狭過ぎるわ」 薫の冷たい声。 本気にさせてしまった――それは後悔ではなかった。 不思議と高揚するイース、姿こそ難あれど、 大切なものを守るために闘う自分自身の姿に.... 「酔っているというのか....?」 自問自答するイースに、満からの提案。 「あの丘へ移動しよう。あそこは広いから、思う存分闘える」 生まれ変わったラビリンスが見渡せる丘。 もし自分が負けてしまったら、ここはもう―― 「感傷に浸っている暇はないぞ」 打ち込まれる満の拳、受け止めると―― 背中が熱い。薫の手から放たれた閃光がイースの背に直撃する。 満と薫の打撃と閃光が、容赦なく、絶え間なくイースを襲う。 あっという間だった。 「他愛ない。私達二人に掛かればこんなものね」 「さっさとこの町を潰して、断末魔の悲鳴を四つ葉町への手土産に してあげましょう」 「....させ....ない」 「ほう、まだ動けるのか。闘えるのか?そんなボロボロの体で」 上半身を起こすのが精一杯だった。 守ろうとする意志、せめてそれだけでも―― 「情けない格好だな。今、楽にしてやる」 満の手から放たれた赤黒い閃光は、真っ直ぐにイースへと向かう。 「終わっ....た」 「まだ終わってないよ、せつな!! 「....!?嘘....でしょ!?」 目の前で、閃光からイースを守っているのは、 自分と同じような格好に身を包んだ―― 「ラブ!?」 「たぁぁぁーーーーっ!!」 閃光を満と薫の方へ跳ね返す。二人はそれを同じ技で相殺する。 「せつな、大丈夫!?」 「ラブ、どうしてここに....それにその格好....」 だが一番の不思議は――自分の体に力が漲ってきたこと。 「....話は後で訊くわ!今はこいつらを倒すことが先決よ!行くわよ、ラブ!!」 「OK!せつな!!」 満と薫の前に、イースとラブが立ちはだかる。 一発一発が――重い、そして強い。 壊そうとするものを、守ろうとするものが上回る。 「何なんだこいつらは....!?」 「どこからこんな力が....何か....巨大なものに覆われるようだ....」 「許さない!!....せつなをこんなにして、それに、 あなた達を闘わせてる奴も許さない!!」 「わたし達は命令に従うのみだ!お前に首を突っ込まれる筋合いは無い!!」 「あなた達の拳からは....苦しみしか伝わってこない!!」 「....引き上げるわよ、薫」 「....そうね、満」 突風が吹き荒れると、二人は消えた。 「....ラブ、改めて訊くけど、どうやってここに?それにその格好は....」 「うん、お昼寝してたらね、夢を見たの。せつなが、二人組に襲われてる夢を.... それでね、助けたいって思ったの。そしたら....気付いたらここに」 「何それ、奇跡ね。....!まさか....」 「よ~さん食べるなぁ、シフォン。なんや一仕事終えたみたいな せいせいした顔して....」 「(プハー)らぁぶ、せつな、いっしょ!」 「ドーナツもジュースも空やんけ~兄弟!ドーナツ追加!あとジュースも!」 「あいよ!この試作品のドーナツ食べてみてよ。味は保証しないけどね、グハッ!」 「な、何やねん、この色....」 「....で、その格好は?」 「へへ~、せつなとお揃い~....」 「ちょっとラブ、大丈夫!?」 せつなには慣れ親しんだ格好だが、ラブにとってはかなり 負担がかかるものだったようで、 無機質なエネルギーはラブの体力を奪っていた。 せつなにもたれ掛かるラブ。 冷たい衣装の奥からでも、伝わり合うぬくもり。 「....少し、横になってもいい?せつな」 「ええ....」 三日月の下、丘の上―― ラブはイースの膝を枕に、少しの間、目を瞑った。 END
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1083.html
【12月1日】 『白か黒か』 タルト「おやつた~べよっと! あれ? ピーチはんの方がケーキ大きいんとちゃう?」 ラブ 「そうかなあ~、じゃあ交換してあげる」 タルト「おおきにっ!」 ラブ 「切り分けてくれたの、せつなだよね。なんで?」 せつな「美味しそうに頬張る、ラブの顔が可愛かったからよ」 ラブ 「うぅ……。なんか、あたしのカレーライスだけ人参多いような。タルト~」 タルト「いや、カレーライスの交換は遠慮しとくで」 ラブ 「よそってくれたの、せつなだよね……? なんで?」 せつな「我慢して食べる、ラブの顔が可愛かったからよ」 タ・ラ(せつなって、一体……) 【12月2日】 『ラブの側にいるだけで』 ラブ 「寒いけど、今日も一日、元気に行くよ!」 あゆみ「立派な心がけだけど、そういうのは早起きして言いなさいね」 ラブ 「だって~、布団があったかかったんだもん……」 せつな「ほら、パンが焼けたわよ。ミルクも温めたから火傷しないでね」 ラブ 「あひがほう、せふな」 あゆみ「食べながら、話すものじゃありません」 せつな「もう、髪がボサボサじゃない。食べてる間に直してあげる」 ラブ 「それじゃ、いってきま~す!」 せつな「きゃっ! ラブ、手を引っ張らないで」 あゆみ「二人とも、遅刻するんじゃないわよ~。って、これじゃ、わたしがパートに遅れちゃう!」 タルト「ピーチはんの寝坊のお陰で、家中がパニックやな……」 シフォン「でも、みんな、げんきになった」 タルト「せやな。ピーチはんは、みんなの元気の素なんや」 【12月3日】 『猫ラブ』 せつな「今日はラブと二人でクッキーを作るのよ。美味しく焼けるといいな」 ラブ 「にはは、ふにゃー、クッキーの焼ける匂いって、たまらないよね~」 タルト「ピーチはん! あんまり顔近づけると……」 ラブ 「熱っ!!」 せつな「もう、何やってるのよ。おでこ、火傷してない?」 ラブ 「あ~、せつなの手が冷たくって気持ちいい~」 せつな「さっきまで洗い物してたから……」 ラブ 「すりすり、ゴロニャン」 せつな「はしゃぎすぎよ、ラブ。でも無事で良かった」 タルト「これはもう……。いただく前からごちそうさまやな」 【12月4日】 『初めてのクリスマスだから』 美希 「今日は、クリスマスツリーの飾り付けをしようかしら?」 せつな「美希の家のツリーって、とっても大きいのね!」 美希 「まあね。モデルやってるから、季節や行事には敏感なのよ」 せつな「私も手伝っていいかしら?」 美希 「もちろん! ついでだし、手伝ってもらえるならお願いするわ」 レミ 「あんなこと言ってるけど、本当はせつなちゃんに見せるために出したのよ」 美希 「やだっ! ママったら」 せつな「そうだったの。ありがとう、美希」 【12月5日】 『せつなの決意』 キュアパッション「真っ赤なハートは幸せの証! 熟れたて・フレッシュ・キュアパッション!!」 せつな「不思議ね、私がプリキュアになるなんて。今でも信じられないくらいよ」 ラブ 「そんなことないよ。せつなは、なるべくしてプリキュアに選ばれたんだから」 美希 「アタシも、せつなはプリキュアに相応しいと思うわ」 祈里 「真面目で、一生懸命で、正義感が強くて、優しくて。理想のプリキュアよね」 せつな「そんな立派なものじゃないわ。ただ、私はみんなより余裕がないんだと思う」 ラブ 「もう、一人でがんばらなくていいんだよ」 美希 「アタシたちが付いてるじゃない」 祈里 「無理しちゃダメよ」 せつな「ええ! 精一杯がんばるわ!!」 ラブ 「やっぱり、わかってないけど……」 美希 「この方がせつならしいわね」 祈里 「うん、輝いてる」 【12月6日】 『シフォン、ダンサーなる』 シフォン「プリップー! シフォンもみんなとダンスおどるぅ~」 ミユキ 「へぇ~、いいわね。じゃあ、わたしが振り付け考えてあげる」 シフォン「キュア、キュア」 ミユキ 「そうよ、腕を一杯に回してターン、そこでフィニッシュ!」 ラ美祈せ『おお~、パチパチパチパチ』 祈里 「シフォンちゃん可愛い!」 美希 「小さな子のダンスもなかなかいいわね」 ミユキ 「シフォンちゃん、良かったら今度のトリニティのコンサートに出てみない?」 ラブ 「ガーン! シフォンが、あたしたちより早くステージデビューするなんて」 せつな 「ボヤかないの。私たちもがんばりましょう!」 【12月7日】 『脱線しました』 祈里 「風邪をひいたワンちゃんが病院に来たの。みんなも気をつけてね」 ラブ 「あたしも昨日遅くまで勉強したからか、なんだか熱っぽいの」 美希 「ラブの場合は知恵熱じゃない? 慣れないことするから」 せつな「頭の中がオーバーヒートしちゃったのね」 ラブ 「ひどーい! っていうか、風邪と関係ない話題になっちゃったね」 祈里 「ちなみに、知恵熱の本当の意味は、乳児の発熱のことよ」 【12月8日】 『対象外?』 ラブ 「シフォンを抱っこしてると、とってもあたたかいね」 シフォン「キュア~、シフォンもあたたかい~」 ラブ 「せつなも抱っこしてみたら? はい!」 せつな「少し恥ずかしいけど、心までポカポカしてくるわね」 タルト「ワイも! ワイも抱っこしたら、きっとあったかいでぇ~」 美希 「せつなの次はアタシの番ね」 祈里 「わたしも久しぶりに」 タルト「ワイかて、可愛い可愛い……。うう~世間の風は冷たいわ~」 【12月9日】 『王子さまのホームステイ』 タルト「ネコはこたつで丸くなるっちゅうけど、わいも暖かいところがええなぁ」 ラブ 「スウィーツ王国は、常春の国だったよね。もしかして恋しくなったの?」 タルト「それはないで。寒い日に、コタツに入ってミカンを食べる。これは故郷にもない醍醐味なんや」 せつな「要するに、コタツで丸くなっていたいのよね。故郷の人には見せられない姿ね……」 【12月10日】 『手編みのマフラー』 祈里 「みんなに内緒で、マフラーを編んでるの。クリスマスにプレゼントするのよ」 キルン「キー」 祈里 「プレゼントって、あげる方も嬉しいの。そして、買うんじゃなくて編むのなら、その嬉しさはずっと続くのよ」 キルン「キー」 祈里 「どうして自分に話すのかって? 内緒にしてると、誰かに話したくなるからよ」 キルン「キー」 祈里 「うん、キルンにはお布団(キーケース)を作ってあげるね」 新-621へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/944.html
【2月1日】 『だけは得意です!』 ラブ 「今日は、あたしがあったかいミルクシチューを作っちゃうよ!」 せつな「ラブって、料理だけは不思議と上手よね」 ラブ 「だけって……ひどいよ、せつな」 せつな「ごめんなさい。でも、調理してる時っていつもと違って繊細だし」 ラブ 「うぅ……それもフォローになってないし……」 せつな「ラブの笑顔と料理はみんなを幸せにしてくれるわ。それは確かよ」 ラブ 「ありがとう。笑顔は幸せ、料理は愛情だよね!」 【2月2日】 『それぞれのおしゃれ』 美希 「冬ってマフラーにコートにブーツって、色々おしゃれが楽しめるのよね」 せつな「なるほどね。着衣が増える分、組み合わせの幅が広がるのね」 美希 「夏は体のラインが表現しやすいから、繊細なおしゃれが楽しめるわ」 祈里 「夏はにがて……。自信ないもの」 ラブ 「どうして? ブッキーのスタイルだって凄くいいのに」 祈里 「普段から美希ちゃん見てるとね。それに、なんだか薄着は恥ずかしいし」 ラブ 「あたしはあんまり気にしたことないな」 せつな「私も、おかしくなければそれでいいわ」 祈里 「無頓着で綺麗って、なんかズルい……」 【2月3日】『鬼はそと』 ウエスター「今日は節分の日というのか。ハァッハッハッハ、よーし! 俺が鬼を退治してやる」 子供たち 「それ~! 鬼は~そと! 福は~うち!」 ウエスター「わっ! 何をするんだ、お前たち。イタタ! こら、やめろ」 サウラー 「どうして君の周りには子供が集まるんだろうね」 ウエスター「知るか! おい、サウラー、お前も何か言ってやってくれ。イタタ」 サウラー 「君はどう見ても鬼だろう。どれ、僕もぶつけるか」 【2月4日】 『逆転の発想』 ミユキ「よーし! みんな、寒さはダンスで跳ね返すわよぉ!」 せつな「じゃあ、夏はどうするんですか?」 ミユキ「暑さはダンスで吹きとばすのよっ!」 美希 「ちょっと無理があるような……」 ミユキ「あ~馬鹿にしたわね。みんな、楽しいと踊りたくなるでしょ?」 ラブ 「うん、あたしもトリニティのコンサート行くと踊りたくなるし」 ミユキ「だからね、逆に落ち込んだ時なんかも、ダンスしたら元気になれるのよ」 祈里 「神父様が言ってた、つらい時ほど笑いなさいって教えに似てる気がする」 せつな「なんだか深いのね」 【2月5日】 『そこは、グリル・クローバー』 ラブ 「今日は桃園家でレストランに行く日なの。ごちそう楽しみ~!」 せつな「もう、ラブったら。今日でそのセリフ三回目よ。食いしん坊ね」 ラブ 「そう言うせつなも、顔がゆるんでニヤケてるよ?」 せつな「ええっ!?」 ラブ 「なんてね、ウソだよ~」 せつな「この~! もう許さないからっ!」 あゆみ「二人とも、食べ残したらデザート抜きですからね」 ラブ 「まかせてよ! デザートにケーキゲットだよ!」 せつな「精一杯がんばるわ!」 圭太郎「あれから半年か、せっちゃんも明るくなったな」 あゆみ「ラブだって、前にもましてね」 圭太郎「そういう僕たちもな」 【2月6日】 『わたし、信じてる』 祈里 「キルンと一緒に動物園に行くと、いろんな動物とお話しできてとっても楽しいの」 せつな「ブッキー、本来は話せない生き物の声を聞くのって、怖くない?」 ラブ 「どうしたの? せつな」 美希 「アタシは、せつなの質問わかる気がするわ」 祈里 「初めは緊張したけど、もう平気。みんな良い子だって、わたし、信じてる」 せつな「信じるって、必ずしも受身の姿勢じゃないのね。素敵よ、ブッキー」 【2月7日】 『安易ですか?』 キュアベリー「ブルーのハートは希望の印! 摘みたてフレッシュ、キュアベリー!!」 ラブ 「ベリーって、結局なんの果物なんだろう?」 美希 「唐突に何よ?」 祈里 「ラブちゃんが桃。わたしはパイナップル。せつなちゃんがパッションフルーツ」 ラブ 「ブドウかな?」 せつな「ブドウはグレープよ」 ラブ 「ブルーだからブルーベリー! なんてね、あはは」 美祈せ「きっと、それね……」 【2月8日】 『夜景を見つめて』 せつな「アカルンがあれば、どこでも行けるのよ。あなたのところにも行ってみたいわ」 ラブ 「えっ、なになに、今なんて言ったの? せつな」 せつな「やだっ、聞いてたの? ――――ただの、ひとりごとよ」 ラブ 「だって、凄く優しそうな顔してたよ」 せつな「こうして街を見てるとね。ほんの一握りの人としか出会ってないんだなって、そう思ったの」 ラブ 「これからも、いっぱい友達ゲットしようね、せつな」 せつな「ええ、精一杯がんばるわ」 【2月9日】 『美希とせつなの大切なもの』 美希 「今日は、ラブのお家でパジャマパーティーなの。どのパジャマを持っていこうかな?」 せつな「美希って、パジャマまで迷うほど持ってるの?」 美希 「もちろんよ。オーソドックスからネグリジェ、ガウン、ワンピース風なんてのもあるのよ」 せつな「寝る時にまでおしゃれに気を配るなんて、さすがね」 美希 「せつなは他には買わないの?」 せつな「私は今のでいいの。ううん、今のがいいの」 美希 (これは負けたかな。可愛いって思っちゃった) 【2月10日】 『可愛い可愛い妖精さんや』 タルト「わいも、ベリーはんのブルンでおしゃれな妖精さんにしてもらいたいわ」 美希 「できるけど、どんなおしゃれがしたいの?」 タルト「そうやなあ。例えば、いかしたスーツでも着てじぇんとるまんになるとかやなあ」 せつな「くすくす、可笑しい。フェレットがジェントルマンですって」 タルト「何がおもろいねん! わいはなぁ、格式高いスイーツ王国の……っていうか、フェレットちゃうわ!」 祈里 「わたしはタルトちゃんがおしゃれするの、凄くいいことだと思うよ」 タルト「おぉ! パインはんはわかってくれるんか」 美希 「じゃあ、いくわよ~。えいっ!」 タルト「どやっ!」 美せ祈「くすくすくす」 タルト「もうええわっ!」 避2-591へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/736.html
カテゴリー名【ラブとせつな】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 旧39 自分を知ることから始めよう maple この世界で知った「おもしろい本」をラブに読み聞かせるせつなと、そんなせつなを実に自然体で受け止めるラブ。読書とホットミルクが似合う、二人の秋の夜のひとコマです。 カテゴリー名【フレッシュ:SSS(小ネタ、独白、掌編等)】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 旧75 重い 軽い maple 手を伸ばそうか、やめようか。本屋の一角で一人逡巡するせつなに、掛けられた声。振り向くと、そこにあったのはどこかで見たことのある顔だった――。26話『4つのハート! 私も踊りたい!!』の、もしかしたらの前日譚。 カテゴリー名【スマイルプリキュア!】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 旧32 くもがくれ maple 昔人の みそひともじに 籠めし心 幼馴染(とも)が呟く ただ切なしと<れいか> ねぇれいか わたしたちはずっと 一緒に居よう 大人になっても 何があっても<なお> 旧36 はじめてのおつかい maple 両親不在の緑川家で、幼い兄弟たちの大冒険が始まった!けいた、はる、ひな、ゆうた、こうた、みんな頑張って!あたしたち5人がこっそり見守っているから……って、え~!?変身!? 旧49 めっちゃ好っきゃねん! maple わたし、星空みゆき14才。仲間たち5人の中で、わたしとあかねちゃんには、あんまり共通点がない。だから、もっともっともーっと仲良くなるために、今日はわたし、あかねちゃんに「関西人」を教えてもらうんです! 旧53 ハンドクリーム maple 最初は落し物を探しに、最近では落し物が無くても交番に来てくれるようになった、小さなお婆さん。彼女との穏やかな時間を過ごしていると、何だか田舎の年老いた母を思い出す。そしてある日、僕は――。 旧58 したたかな maple 弓道とは、一人静かに己の心と向かい合うこと。でも、皆さんと一緒に未来に向かっていくことも素敵なことです。そのためにも――。弓道部の練習を覗きに来た四人に、れいか先生の講義が始まります。 旧60 ふたりの「おんなじ」 maple 弓道の稽古をしているれいかの元に、あかねがビニール袋を提げて現れて……。本編ではあまり接点の無かった二人の交流を描いたお話です。 カテゴリー名【プリキュア&プリキュア!短編】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 旧26 変わるもの 変わらないもの maple 十年前のその日。緑川源次は、生涯で初めて尊敬できた大切な先達を亡くした――。大人から子供へと、想いは受け継がれる。サラサラと静かに時は流れ、そして……。スマイル&○○○の、じわりと沁みるコラボSSです。 カテゴリー名【オールスタープリキュア!ドキドキきゅんきゅん!冬のSS祭り2014】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 競作50 「がとー しょこ ら び」 maple 頼る者と頼られる者。それぞれのキモチは、目の前のこの作業に込めて。ありすと真琴、二人の儚くもずしりと重い、ビタースイートな結末や如何に……!
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/81.html
頭に木霊する美希の声。震える怒声。痛々しい泣き声。底冷えする皮肉。 そして、すべてを諦めたような力の無い呟き。 強く優しく、物分かりの良い美希しか自分達は欲していなかったのだろうか。 励ましてもらった。相談に乗ってもらった。気持ちをぶつけさせてもらった。 ただ、黙って側にいてくれた。 いつだって美希はラブの、祈里の、せつなの気持ちに寄り添おうとしてくれていた。 美希にどれだけ救われたか。数え切れないくらいなのに。 それでも、心の隅にあった冷めた感情。 所詮、当事者ではないのだから。 外側から眺めているだけの部外者だから。 魂に牙を立てられ、血を啜られるような思い。 心を握り潰され、毟り取られるような痛み。 美希には分からない。 自分達の気持ちなんて理解出来ないだろう。 そう、殻の外に美希を閉め出してはいなかったか。 「あたしね、思ってた。思おうとしてた。一番ブッキーが悪いんだって」 「うん…」 「それで、一番馬鹿なのはあたし」 「………」 「一番傷付いたのはせつな。それで、それでね。美希たんは……」 「…………」 「……関係ないって…。こんなゴタゴタ、美希たんには迷惑なだけだろうって…」 「……うん…」 「ブッキーさっきから、うん、しか言ってない」 「うん……」 ひっぱたいてくれた美希の熱い手のひら。 優しく髪を撫でてくれた綺麗な指。 毅然と叱ってくれた声。 何も言わず包み込んでくれた温かな膝。 どうして忘れていられたんだろう。 「ねぇ…美希たん、何か用があったんじゃないのかな?」 突然訪ねて来たわけではあるまい。 自分達の物思いに耽り、外の気配に気付かなかったのは迂闊としか言いようがないが 常の美希なら来る前に電話なりメールなりしそうなものなのに。 ラブの言葉に祈里は痛みを堪えるような顔になる。 「…約束、してたの……」 項垂れ、祈里は背中を丸める。 「美希ちゃんの部屋でね、一緒に勉強しようって…。」 「へ?じゃあ、なんで……」 自分を部屋に上げたのか、そう言いかけてラブは口をつぐんだ。祈里の自嘲があまりにも深そうで。 「忘れちゃったの。ラブちゃんの顔見たら」 ラブが訪ねて来てくれた。会いに来てくれた。例えどんな理由でも。祈里を詰る為だとしても。 ラブが自分から祈里の元へ足を運んでくれた。 舞い上がった。有頂天になったとすら言える。そして。 そして、美希とのささやかな約束など一瞬にして頭から消し飛んでしまった。 「…ブッキー…」 祈里は鞄に手を伸ばし、中を探る。底の方まで落ちていたリンクルン。 チカチカと点滅する光を見て、祈里は一層苦し気に顔を歪める。 何度着信があったのだろう。メールも何通も来てるに違いない。 多分、そこにはいつまで待っても現れない祈里を心配する美希が沢山いる。 この間の買い物。せつなとのやり取りを美希に詳しくは話していない。 それでも美希は何かあったのだと察してくれてる。 ずっと気にかけてくれていた。 電話で、メールで、放課後待ち合わせてお喋りして。美希は無理に聞き出そうとは決してしない。いつも祈里から話すのを待ってくれる。 今日だってきっとそう。 少しでも祈里の心が晴れるように何時間でも付き合うつもりだったに違いないのだ。 連絡も入れず現れる気配の無い祈里にどれほど気を揉んでいたのだろう。 何かあったのかと心配し、出ない電話や返信の無いメールに焦れて。 それならいっそ、と直接訪ねて来たのだろう。 そして、その結果がこれ。 聡い美希は瞬時に理解したに違いない。 祈里は美希の顔を見るまで、いや、顔を合わせた後でさえ約束の事なんてすっかり忘れていた事に。 美希に詫びる事すらせずにひたすら言い訳を並べ、ラブを庇う姿に どれほどやるせない思いをしただろう。 リンクルンを開く勇気がでない。 メールに溢れているであろう祈里への労りと思い遣り。 それに対峙するには今の自分は愚かすぎる。 その美希の思いを直視する資格など無いように思われた。 「…ねえ、ラブちゃん…」 泣き笑いの形に顔を歪めて祈里が問う。 「わたしって、昔からこうだったのかな……?」 結構、良い子のつもりだった。 少し前なら先約があるのを忘れるなんて考えもしなかった。 学校でだって目立つ存在ではないけど真面目にやってて友人だっている。 獣医を目指してるんだから勉強だって頑張ってる。 誰かの役に立ったり、人に喜んでもらう事が自分の喜び。 せつなの事は。せつなにしてしまった事は、そんな自分がおかしくなってしまったからだと思っていた。 「ラブちゃん、わたしね。せつなちゃんが好きで。好きで好きで好きで好きで………」 狂ってしまったのかと思っていた。 自分の中にあんなにも激しい感情があるなんて信じられなくて。 体を突き破りそうな激情を持て余して。 他の事は何も考えられなくなって。 苦しくて、苦しくて。無理矢理にでも奪えば、解放されるのかも知れない。 だから……。 「でも、違った。全部、何もかも…間違ってた」 やった事も、言った事も、今までも、たった今だって。自分が良い子だったって思ってた事も。 きっと昔から我が儘で自分勝手な人間だったんだ。 自分のやりたい事、欲しいもの。手に入れる為ならどんな事だって出来る卑怯者だったんだ。 恵まれてただけ。 恵まれ過ぎてて、自分がどんな人間か直視せずに済んだだけだったのではないのか。 いつだって欲しい物は手の届く場所にあった。 何かが欲しいと思う前に与えられてた。 両親は躾には厳しく無駄な贅沢はさせなかったが、お金で買える物には元々それほど執着が無かった。 物も愛情も空気のように体を包んでいるのが当たり前で、誰もがみんなそんなものだと思っていた。 自分は与える事に喜びを見出だす人間。 大切な人に笑顔になって貰うのが何よりの幸せ。 そう、信じて疑いもしなかった。 でも違った。 今までの自分を思い返す。 誰かの幸せの為に痛みを堪えて宝物を差し出した事は無かった。 欲しくてたまらない大切な何かを誰かに譲った事も無い。 もし自分の一部とも言えるほどかけがえのない物を手放しても、 それを手にした相手が喜んでくれるなら構わない。 そんな風に思えただろうか。 「無理だよね。だから…こうなってる…」 自分の考えに祈里は茫然とした。 いつだって人に与えていたのは手放しても惜しく無いもの。 身の回りに有り余るおこぼれを上から投げ落として悦に入っていただけではなかったか。 感謝の言葉や眼差しを心地よく浴びたいが為に施しを与えていただけではないのか。 恐ろしい。足元がガラガラと音を立てて崩れていく。 どれほど傲慢な笑顔を振り撒いていたのか。 自分では労りねぎらうつもりで掛けた言葉は本当に相手に届いていたのだろうか。 何もかもが偽りに彩られている気がした。 これっぽっちも優しくなかった自分自身。 せつなの言った通りだ。 馬鹿で、傲慢で、欲張りで。しかもそれを今の今まで実感してはいなかった、残酷なほど幼い自分。 そんな自分にせつながくれたのは、途方もなく甘く優しい罰。 笑顔で側にいる事。 せつなの幸せを見届ける事。 やっと分かった。情けないほど自分を甘やかしていた。 一度だって、本気で自分をどうしようもない人間だと思った事は無かったのだから。 せつなは、そんな祈里でも何とか乗り越えられるだろう甘い甘い償い方を教えてくれたのだ。 せつなの為ではない。祈里が罪に押し潰されてしまわない為に。 「どうしてそう極端なのかなあ……」 よっこらしょ、とラブが祈里の横に腰掛ける。 青い顔で項垂れる祈里の頭をコツンと小突いた。 「天使か悪魔か、どっちかでなきゃいけないってコトないでしょ。 誰だってその間でふらふらしてるもんじゃない?」 「……でも………」 祈里はゆるゆると首を振る。 確かにそうだ。誰にだって天使のように優しくなれる時、悪魔のように残忍になれる時がある。 それでも、と祈里は思う。 いざという時。何か危機や困難に直面した時、天使か悪魔かどちらかにしかなれないなら、 ラブは間違いなく天使になる事を選べるだろう。 大切な人の為に。もしかしたら、見ず知らずの他人の為にさえ我が身を 投げ出せるのがラブだと知ってる。 でも自分はどうだろう。少し前までなら、自分だって天使になれると無邪気に信じられた。 でも、今は…。 息が苦しい。自分が身勝手で利己的な人間だと認めるのがこれほど痛いと知らなかった。 苦痛から逃げ出す人間だと思われたくない。 でも、初めて愛した人を、姉妹のような親友達を裏切り傷付けた自分を 真っ当な人間だと考えるのを己の心が拒んでいた。 お前に愛や信頼を口にする資格は無いのだ、と。 「ねぇ、ブッキー。あたしそんなにイイコじゃないよ…」 ラブはポリポリと頭を掻きながら溜め息をつく。 「今日だってさ…別に、せつなのカタキ取ろうとか、そんなんじゃない」 だって、そうでしょ?こんな事、せつなが喜ぶ訳ない。 余計に苦しませるだけだって考えなくたって分かるもん。 それなのにさ…… 「恐かったんだ、あたし」 「……恐かった…?」 「なんか、色々薄れていくのが……」 辛かった。悲しかった。痛くて苦しくてどうしようもなかった。 ただ息をして、生きていくのすら難しい気がしていた。 それでも時間が経つにつれ、少しずつ傷が癒えて行くのが感じられた。 せつなの笑顔に祈里が応え、美希が側にいてくれる。 同じ場所で笑っている自分がいる。楽しいと感じている自分がいる。 何もかも無かった事にしてしまいたい。 また四人で笑いながら過ごして行きたい。 このまま月日が流れ、すべてが遠い過去になってしまえば……。 「ホントは…そうなれば一番いいのかも。ゆっくり傷を治して、ゆっくりお互いを許し合って…」 でも、それは嫌なのだ。とラブは拳を握り締める。 悪夢にうなされるせつなを見る度に、せつなの中に残った祈里の影を感じてしまう。 苦しむせつなを見るのが辛いだけではない。 悔しいのだ。 ずっと大切に守っていきたかった。 手のひらにくるみ込み、胸で温めてきた宝物。 それに理不尽な力で大きな傷を付けられた。 その傷さえ愛しい、そう思えるほど大人にはなれなかった。 穏やかに過ごす四人での時間にふと痛みを忘れている自分に気付く。 束の間の安息に、もしかしたらこのまま。このまま、元に戻れるかも知れないと淡く胸が温まる。 それでも目の前の傷はそれを忘れさせてくれない。 一瞬でも忘れようとした自分が許せなくなる。 忘れたい。忘れられる訳がない。 許したい。許したくない。 戻りたい。出来るはずない。 もし奇跡が起きて時間を戻せたとしても…。 また同じ事が起こるかも知れない。 だって心は変わらないのだから。 どれほど時間を遡ってもせつなを好きな自分は変わらない。 祈里だってそうだ。 そしてせつなも。きっとまた好きになってくれる。 そう、躊躇うことなく信じられるのに。 なのに立ち止まったまま足掻いている。 せつなは血を流しながらも、その傷を抱いていくと決めたのに。 共に歩む為に前を向いているせつなが眩しかった。 せつなが選んでくれた。 私はあなたのもの。そう言ってくれた。 相応しくありたいのに。 薄汚れた嫉妬にもがく姿なんか見せたくないのに。 せつなと祈里が悪夢と言う名の逢瀬を重ねている。 そんな風に感じる自分が堪らなく矮小でいたたまれないのだ。 「馬鹿だよねぇ……。せつなはあたしが好きって言ってくれてるのに。 せつなの隣にいて恥ずかしくないようになりたいのに」 やってる事は逆ばっかだよ。 せつなの中の祈里は消せない。 それなら祈里の中のせつなを真っ黒に塗り潰してしまえばいい。 せつなと同じ目に。別の存在を祈里の奥深くに無理やり捩じ込んでしまえば…。 「何でだろうね。やっちゃった後でないとどんだけ馬鹿か分からない…」 多分、それも間違い。 やってしまった後でも理解なんて出来てないんだろう。 分かったつもりになるだけ。 美希を、傷付け蔑ろにしていた事を今まで気付けなかったように。 「あたしさあ、ブッキーも好きなんだよねぇ…」 「………ラブちゃん…」 「ブッキーもあたしが好きでしょ…?」 コクリ、と頷く祈里を見て、あんなことされたのに、とラブは苦笑いする。 でも本当にそうなのだ。 きっと、途中で止めて貰えなくても。この先悪夢にうなされたとしても。 ラブを嫌いになる自分は想像出来なかった。 羨ましくても、妬ましくても、ラブさえいなければ、とすら思った事はなかった。 「困ったよねえ。恋敵なのに」 「……せつなちゃんも、そうなの…?」 だから、これほどまでに庇ってくれる。 おずおずと尋ねる祈里にラブはあからさまに嫌な顔をする。 この程度の事で一緒にするな、そう顔に書いてあるのがありありと読み取れた。 また不用意な言葉を口にしてしまった事に祈里は身を縮める。 「せつなはブッキーが好きだよ。あたしの為に許さないだけ」 「…………………」 「あたしが…あたしが、ブッキーを許してしまわないように頑張ってるの知ってるから……」 「許して…しまわない、ように……?」 「……ホントに、分からない?」 くしゃくしゃになった表情を隠すようにラブは抱えた膝に顔を埋める。 祈里は頭を振りながら滲んできた涙を必死に堪えていた。 分からないはずはない。 ずっと前から分かっていた。 ラブもせつなも許してくれている。 祈里自身が自分を許せないから罰を与えてくれてただけ。 自分よりもずっとずっと傷付いているはずの二人が、更に我が儘に付き合っていてくれてただけなのだ。 想う相手を諦める。それがどれほど難しいか分かるから。 目の前で微笑む愛しい相手に指一本触れられない。 自分ではない、他の誰かの腕の中にいる想い人をただ見ているだけ。 それがどれほど心を引き絞られるかが分かるから。 ラブにはせつながいる。 せつなにはラブがいる。 それだけで、他に何もいらないから。 だから、すべてを許して痛みを堪えてくれていた。 堪えようと耐えてくれていた。 そして、少し零れ出してしまったのだろう。 荒れ狂う思いの塊をせつなにぶつける訳にはいかない。 それならば自ずと向ける相手は決まっている。 祈里には、傷付いても耐える義務があるのだから。 「ねえ…あたし達、もっと大人だったらこんな風にはならなかったのかな…。 もっと大人だったら、こんな馬鹿な真似、せずに済んだのかな…」 何の覚悟も出来ていなかった。 痛みを引き受ける覚悟も。 大切な人を傷付ける覚悟も。 どんな結果であろうと受け入れる覚悟も。 ただ何もせず、流れに身を任せる覚悟すら。 見苦しく足掻き、自棄になって刃を振り回す。 後で更なる後悔が待っているとも知らずに。 「美希たんに、謝ろっか。二人で…」 「……でも…」 今さら謝罪に意味なんてあるのだろうか。 (アタシは許さないから。) (これ以上、失望させないで。) 美希の凍えた声が頭を巡る。 裏切ってしまった、どんな時も真っ直ぐに手を差し伸べてくれ続けた人。 美希の瞳から放たれた氷の矢。 そんな視線を幼馴染みに向けなければいけなくなった美希に詫びる言葉なんかあるとは思えなかった。 「許してもらえなくても、さ。悪い事した時は謝らなきゃ」 「ラブちゃん…」 それにね、謝ってもらいたいもんなんだよ。許す、って言ってあげられなくても。 はぁ…。と、深く溜め息をつくラブを祈里は横からそっと見つめる。 ラブは何度こんな溜め息をついて来たのだろう。 「ごめんなさい」 「あたしにはもういいよ。さっき言ってもらったし」 「分かった」 「ああ、でも許した訳じゃないからね」 「うん。それも分かってる」 許す。とは言ってはいけない。 それはラブの意地なのだろう。 祈里は何となくそれを感じ取り、そのラブの気持ちが何故か嬉しかった。 祈里が叶わなくともせつなを想う。 その想いが続く限り、ラブは祈里を許すとは口には出さないつもりなのだ。 許しを請う為に謝るのではない。 少しでもマシな人間になりたいから。 的外れな謝罪しか出来ないかも知れない。 美希やせつなの気持ちなんて分かっていないのかも知れない。 それでも、言葉にしなければならない。 伝わらなくても。撥ね付けられても。 相手を思い、気持ちに寄り添う努力を放棄する言い訳なんてどこにもないのだから。 「ラブちゃん、わたし、謝りたい。美希ちゃんにも、せつなちゃんにも…」 初めて、そう口にした。 みっともなく掠れた声。怯えを隠せない震える唇。 謝罪はいらない。許したくない。せつなには、面と向かってはっきりそう言われた。 やってしまった事を謝るのではない。 余りにも愚かだった自分に気付けなかった事を謝りたい。 せつなが好き。多分、これからも。 美希が大切。それなのに守ってもらって当たり前になっていた。 せめて罪を償うに足る人間になりたい。 甘え、頼り、寄り掛かったままその事に気付きもしない。 そんな人間のままでいて良い訳がない。 急に強くはなれないのは分かっている。 でもせめて…自分の弱さや愚かさから目を背けずに。 一つ一つ、ほんの少しずつでも気付いた事を糧にして行きたい。 もう一度、友達と呼んでもらえるように。 黒ブキ32へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/432.html
「おかあさん……」 ベッドの中で、せつなは呟く。ふふっ…と頬が弛む。 「おかあさん………」 もう一度呟き、その言葉が形取る唇の動きをそっと指でなぞる。 (……くすぐったい………) 唇も胸の中も何だかくすぐったい。 そしてほんわりと温かい。 今日、生まれて初めて口にした言葉。 口の中ですうっと淡くほどけて、胸の中に何時までも消えない温もりを 残してくれている。 (…いいな。ラブは……。) ちょっぴりラブが羨ましくなる。 ラブは物心付くずっと前から、あの温かな言葉を口にしていたんだ。 おかあさん。そう呼んで、あの優しい腕に抱かれて育ってきた。 (だから、ラブもあんなに温かいのかしら……?) せつなは腕を交差させ自分を抱き締める。 胸の温もりを逃すまいとするように。 この温もりをずっと大事に抱き続けていれば…… (私も、ラブみたいに温かくなれるかしら?) 「せつなぁ……、いい?」 カラリ、とベランダからラブが入って来た。 「…どしたの?」 「あのね……一緒に寝たいなぁって…。」 枕を抱いて照れたように微笑むラブ。 どうしたんだろう? せつなはそっとベッドの端に寄り、ラブの為のスペースを空ける。 「えへへ…お邪魔しまーす……。」 ラブが潜り込んで来ると、ふわり、とせつなの大好きな匂いが体を包む。 嬉しくなったせつなは、ラブの胸元に頭を擦り付ける。 そんなせつなの甘えた仕草をラブは笑わない。 優しく抱き締め、頭を撫でてくれる。 「ラブ……。」 「なあに?せつな。」 何でもない。 ただ、呼んでみただけ。 せつなは気が付いた。 ラブ、そう呼ぶとさっきと同じくらい温かくなっている自分に。 でも、おかあさん、とはちょっと違う。 胸の奥の柔らかい部分をきゅっと掴まれるような、微かな痛み。 ちょっぴり痛いのに不思議と辛いと感じない。 悲しくないのに泣きたいような、甘い疼痛。 ふふ……、くすぐったい。 これが、幸せって事なのかしら。 ……… …………… 「おかあさん」、今日、せつなは初めてそう呼んだ。 お母さんは、嬉しそうに少し涙ぐんであたしとせつなを両腕に抱き締めた。 あたし、ちょっぴりヤキモチ感じちゃった。 お母さんと、せつなの両方に。 せつなを抱き締めてるお母さんを見て、 あたしだけのお母さんじゃなくなっちゃった…って。 お母さんに抱き締められて、はにかんでるせつなを見て、 せつなを抱っこするのはあたしの役目なのに……って。 何となく淋しくなって、せつなの部屋を訪ねた。 ベッドに入ると、せつなは甘えたように擦り寄ってくる。 「…ラブ……。」 「なあに?せつな。」 「……何でもない。」 そう言って、あたしの胸のあたりで頭をもぞもぞさせてる。 ちっちゃな子供みたいな仕草を見せるせつなが可愛くて、 あたしは頭を撫でて、頬擦りする。 せつな。そう名前を呼ぶと、その音はキャンディみたいに甘く舌の上を転がる。 そして、胸の中がきゅうんと狭くなったように、少し苦しい。 でもこの頃気が付いた。 胸の中が狭くなったんじゃなくて、せつなでいっぱいになってたんだって。 名前を呼ぶ度に胸にせつなが溢れていく。 (せつなとなら、お母さんを半分こしてもいいかな…。) その代わり、せつなは全部あたしのものだもんね。 「…せつな?」 もう眠った? 心地よい寝息を感じながら、せつなも自分と同じように思ってくれてるのかな? と、思ってみる。 だから時々意味もなく、あたしの名前呼ぶのかな? せつなはだんだん 家族になってきてくれてる。 嬉しくて、少し淋しい。 あたしだけの、特別なせつなも欲しいって思うのはワガママかな? せつなの可愛い寝顔。お母さんにだって見せたくないって、少し思う。 せつなの幸せの中で、あたしの事、ちょっぴり特別扱いして欲しいな。 せつなの一番でいたいから。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1291.html
幸せは、赤き瞳の中に ( 第8話:全力の想い ) 薄暗い部屋の中で、ゲージに降り注ぐ不幸のしずくが陰鬱な音を響かせる。その前にはノーザの姿があって、壁に映し出された街の様子を満足げに眺めている。 もっとも、このノーザは実体ではなくホログラム。映像が映像を鑑賞しているという何とも奇妙な光景を、ラブは不幸のゲージの隣に吊るされたまま、ぼんやりと見つめていた。 さっきから、巨大な電波塔のナケワメーケが、まるで砂の城でも壊すように易々と建物を破壊する光景が続いている。その無造作な打撃の音、壁がボロリと崩れる音のひとつひとつが、重く鈍い痛みを伴ってラブの胸を打ちつける。 ――やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね。 昨日の少女の言葉がもう一度聞こえた気がした。少女の攻撃をただ避け続け、無様に倒れたあの時の冷たい床の感触が蘇って来る。 (そうだよね。変身も出来なくて、こんなところで捕まっちゃってる今のあたしに、出来ることなんか……) 力なくうつむきかけるラブ。だが、その途中で不意に目を見開くと、今度はガバッと顔を上げて食い入るように映像を見つめた。 場面が切り替わって、ナケワメーケの足元がアップになったのだ。そこに映し出されたのは、ラビリンスの住人たちだった。まだ被害の及んでいない街の奥へと逃げようとしているのか、お互いに目を合わせることもなく、全員がただ同じ方向に向かって一目散に走っている。 疲れ切って表情のない人々の姿に、少し前のお料理教室の光景が重なった。楽しそうに輝いていた人々の笑顔が思い出されて、目元にじわりと涙が滲む。が、それを振り払うように、ラブはブンブンと乱暴に頭を振った。 (泣きたいのは、あたしじゃなくてみんなの方だよ。あたしに出来ることって、本当に何も無いの? こうしてみんなが苦しんでるのを、ただ見ていることしか出来ないの?) 住人たちが我先に逃げて行った方に向かって、ナケワメーケがゆっくりと移動を開始する。歯を食いしばってその映像を睨んでから、ラブは気持ちを落ち着けるように目を閉じて、ふぅっと大きく息を吐いた。 まるで暗闇に淡い光が灯るように、目の裏にぼんやりと浮かんできたのは、四つ葉町公園の景色だった。ラブが一番よく知っている、石造りのステージの上から見た眺めだ。 豊かな緑を背景に、パンパン、と手を叩いて指導の声を飛ばすミユキ。その足元に置かれたダンシング・ポッド。そして隣に感じる息づかいは、美希、祈里、そしてせつな――大切な仲間たちのもの。 次に浮かんできたのは、上空から見下ろす巨大な怪物の姿と、耳元で鳴る風の音。そして華麗に変身した頼もしい仲間たち――ベリー、パイン、パッションの姿。 普段とは桁違いのスピードとパワーは、変身によって手に入れたもの。しかし完全にシンクロした四人の動きは、毎日のダンスレッスンと、プリキュアとしての経験を積み重ねて培った賜物だ。 (確かにプリキュアの力は、あたしの力じゃない。でも、ダンスもプリキュアも両方選んで、全力で頑張って来たのはあたしたちだよ。だからプリキュアになれなくても、凄い力は出せなくても、頑張った分はきっと、あたしの力にもなっているはず) パッと目を開けて、今度は決意を込めた眼差しで映像を見つめる。姿は見えないが、このナケワメーケを操っている――そしてこの後、人々を不幸に陥れる通告をするはずの少女が、このどこかに居るはずだ。 (出来る出来ないじゃない。やらなきゃいけないことがあるって、わかってるじゃない。あの子を止めなきゃ。そのためにはまず――ここを出る!) 映像を見据えたまま、ラブがもう一度歯を食いしばる。でも今度は悔しさを堪えるためではなく、渾身の力を出すためだ。 まずは両腕にグッと力を入れて、捕えられている腕を何とか外そうと試みる。だが、ただの少女であるラブの力では、蔦はピクリとも動かない。 今度は腕だけでなく足もバタバタさせ、全身を滅茶苦茶に動かしてみる。それでも蔦の拘束は緩まなかったが、吊るされているラブの身体が小刻みに揺れた。 ラブは自分の身体を見下ろし、次に周囲を見回して、うん、と小さく頷いた。思い起こすのは心に刻まれたミユキの言葉と、身体に刻まれたダンスの動きだ。 ――ある方向に力が働けば、必ずその反対方向にも力が働くの。それが“反動”よ。右に行きたければ、まず左に重心を移す。上に大きく跳びたければ、まずは低く屈みこむ。そうやって―― (……そうやって力を蓄えれば、より大きな力が生まれる!) ラブが再び全力で身体を動かして、蔦を揺らそうとする。その顔は見る見る真っ赤になり、額には汗が浮かんできた。それでもラブは、ハァハァと荒い息を吐きながら、不自由な身体を少しずつ、必死で動かし続ける。 やがて、ラブの動きは少しずつリズミカルになり、それにつれて蔦が少しずつ大きく振れ始めた。その揺れが目に見えて大きくなった時、ラブはさらに力を振り絞って、思いっ切り身体を反らした。 ぐん、と蔦が大きく揺れる。その揺れを振り子のように使って、ラブは隣に立つ不幸のゲージを、ゴン、としたたかに蹴りつけた。 ノーザが恐ろしい形相でラブを振り返る。だが一度勢いがついたラブの身体は止まらない。 もう一度、さらにもう一度、ゴン、ゴン、と響く鈍い音。それを聞いて、ノーザが慌てたようにさっと右手を挙げる。その途端、生きたロープはするすると解け、ラブを床に下ろして開放した。 思わずその場にへたり込みそうになるラブ。だがそれを必死で堪えて震える足で立ち上がり、鋭い眼差しをノーザに向ける。 「あら、ごめんなさい。苦しかったのならそう言ってくれれば、すぐに下ろしてあげたのに」 ノーザがさっきの狼狽えた素振りを取り繕うように、妖艶な笑みを浮かべてみせる。それでもラブの表情が変わらないのを見て、ノーザは口の端を斜めに上げると、いつになく優し気な声で言った。 「解放してあげたついでに、この部屋からも出してあげるわ。上の部屋にでも行って、少し休憩なさい」 「それより建物の外に……そこに映っている場所に、帰してくれないかな」 粗い呼吸を抑えて映像を指差すラブに、ノーザが余裕の笑みを浮かべたままでかぶりを振る。 「それはダメねぇ。でもこの建物の中であれば、どこに居ても構わないわよ」 余裕の表情でラブを見下ろすノーザの映像。その顔をひたと見つめながら、ラブは唾を飲み込もうとして、口の中がカラカラに乾いていることに気付いた。 (せつな。美希たん。ブッキー。ミユキさん。お願い……あたしに力を貸して!) もう一度、一瞬だけ祈るように目を閉じてから、ラブは静かに目を開けて、ノーザに向かって声を張り上げた。 「本当にいいの? この建物の中に居たら、あたし、何をするか分からないよ? コントロール・ルームの場所も分かっちゃったし、またゲージを壊しちゃうかもしれないけど」 「あら。あなたにそんなこと、出来るのかしら」 「……試して、みる?」 そう言いながら、ラブはノーザから片時も目を離さずに、ゆっくりと腰のリンクルン・ケースに手を置いて見せた。 今度は苛立たし気な表情を隠そうともせず、ノーザがラブを睨み付ける。 「ふん、せっかく優しくしてあげたのに、つけ上がるとはいい度胸ね。ならば元通り、大人しく縛られているがいい」 ノーザの声と同時に、鉢植えから再び蔦が放たれる。だが一瞬早く、ラブはパッと身を翻した。 横っ跳びで不幸のゲージの後ろに身を隠す。鋭い鞭のようにラブに襲い掛かった蔦は、ゲージに届く直前に、まるで慌てて急ブレーキをかけたかのように失速した。 忌々し気に歯噛みしたノーザが、指をパチリと鳴らす。すると蔦が再び方向転換し、今度は部屋のドア目がけて直進すると、バタンと大きく押し開けた。 「今はお前に構っているヒマは無いの。さあ、この部屋から出て行きなさい」 「嫌だよ。出て行ってほしいのなら、外に出してくれなくちゃ」 「調子に乗るのもいい加減にすることね」 再び蔦が、今度はさっきとは違う枝から放たれる。続いてもう一本、その次は同時に二本、太さを変え、速さを変え、本数を変え、次第に数と力を増して襲ってくる緑色の鞭。だが、ラブはゲージの後ろ半面を盾に使い、サイドステップを繰り返して、何とかそれを凌ぎ続ける。 ラブの真剣な眼差しは、蔦を放つ小さな鉢植えにじっと注がれていた。最初はただスピードにばかり翻弄されたが、何度か避けているうちに、その動きに規則性があることに気付いたのだ。 あの最終決戦で、蔦を自在に操って攻撃してきたノーザの動き――あの時によく似た、でももっと単純で分かりやすい予備動作が、必ずあるということに。 (蔦が飛び出す直前に、枝がグッとしなる……。これもミユキさんが言ってた“反動”だよね。それをちゃんと見ていれば、何とか避けられるはず!) 頼みは盾にしている“不幸のゲージ”。四つ葉町にあったものより小さなこのゲージは、大きさだけでなく強度の面でも劣るのか、蔦はゲージに触れることさえ避けるような動きをしている。 ラブにとっては、それが付け目だった。自分と蔦との間に常にゲージが挟まるよう小まめに動きながら、蔦を避け続け、帰してほしいとノーザに訴え続ける。 ゲージを挟んでの攻防が、どれくらい続いただろう。いくら動きを予測できると言っても、変身もしていないラブの体力には限界がある。もうとっくに息が上がり、膝もがくがくと震えるようになった頃。 完全にゲージの方を向いて、苛立たし気にラブを睨んでいたノーザが、不意にハッとした顔をして壁の方を振り返った。ラブも思わず鉢植えから目を離して、映像に注目する。 「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの制裁だ!」 映像の中から、威圧感を伴った声が響く。スピーカーのナケワメーケに増幅されたその声の主は、怪物の肩の上で腕を組み、仁王立ちしているあの少女だった。 少女による不幸の通告が、ついにラビリンスの住人たちにもたらされたのだ。 ずっと渋面を作っていたノーザが、ニヤリとほくそ笑む。 「フフフ……。これでラビリンスの国民たちは不幸に沈む。残念だったわねぇ」 「うわぁっ!」 映像をもっとよく見ようと、ついふらふらと前に出たラブが、初めて蔦の鞭を喰らって弾き飛ばされる。何とかゲージの陰に転がり込むと、ラブは自分に言い聞かせるように、必死で声を絞り出した。 「まだ……諦めないよ。不幸は……不幸は必ず、幸せに、生まれ……変われるんだからっ!」 「ええい、まだそんな戯言を!」 今度は何本も一度に襲い掛かる、蔦の攻撃。ラブは何とかゲージの陰を移動して避けたが、その動きはさっきと比べて明らかに精彩を欠いていた。 枝の動きを注視しなくてはいけないのに、どうしても気になって、その視線が時折映像の方へちらちらと流れるのを止められない。おまけにさっき鞭の攻撃を受けた左腕が、ズキズキと痛み出した。そうでなくても身体はとっくに限界を超えて、悲鳴を上げているのだ。ゲージのお蔭でそれ以降は大きな打撃は免れているものの、次第に蔦の先がラブの身体に当たり始める。 そしてついに、ラブがゲージを背にしてよろよろと崩れ落ちる。ノーザの含み笑いと共に、蔦がゆっくりと遠巻きに伸びてゲージの後ろを窺う。そして何とか立ち上がろうともがくラブの身体を、容赦なく絡め取った。 だが次の瞬間、蔦の動きが止まった。映像の中から突然響いた、パリン、という乾いた音。それを聞いて、ノーザが顔色を変えて映像の方に向き直ったのだ。 そこに映っていたのは、あろうことかナケワメーケのダイヤを拳で打ち砕くウエスターと、それを驚愕の表情で見つめる少女の姿だった。 少し遅れて地面に倒れる、元に戻った街頭スピーカー。しばしの間呆然としてから、ウエスターに挑みかかる少女。そんな少女をいとも簡単に倒して、その身体を肩に担ぎ上げるウエスター……。 「おのれ……これからが不幸集めの本番という時に! だからあれほど、彼には気をつけろと……」 悔しそうにそう呟いてから、ノーザはさっと右手を前に突き出した。 「こうなっては仕方がない」 それを合図に、動きを止めていた蔦がするすると動き出す。そして、もう抵抗も出来ずに荒い息を吐いているラブを吊り上げると、ノーザのすぐ目の前の中空にかざした。 幸せは、赤き瞳の中に ( 第8話:全力の想い ) ナケワメーケが倒された現場から一番近い警察組織の建物に、一台の車が横付けされた。バラバラと車を降りる警官たちの最後にウエスターが降り立って、気を失った少女を建物の中に運び込み、床に下ろす。 その瞬間、少女の表情が動き、眉間にわずかに皺が寄った。 「気が付いたか。起こす手間が省けたな」 ウエスターが無表情でそう言いながら少女を見下ろす。が、部屋の外がにわかに騒がしくなったのに気付いて、今度は彼の方が眉間に皺を寄せた。 少女をそこに寝かせたまま、部屋の入口の方へ取って返す。すると、開けっ放しだったドアから小さな人影が飛び込んだ。 「イース! ここは俺に任せろと言っただろう!」 人影は――せつなはウエスターの呼びかけには応えず、部屋の中に目を走らせた。そして少女の姿を認めると同時に、その身体から、フッと力を抜いた。 ウエスターの眉間の皺が、わずかに深くなる。それは些細だが、確かな違和感だった。ここで筋肉を弛緩させたのは、次の瞬間に力を爆発させるため。飛び出す“反動”を得るための予備動作としか思えない。 普段の優しい眼差しからは考えられないような、感情の見えない赤い瞳に危機感を覚え、ウエスターはせつなを拘束すべく動き出す。だが、せつなは目にも留まらぬ速さでその腕の下をかいくぐると、仰向けに寝かされている少女に覆い被さるようにして、その顔のすぐ横の床に、ダン、と掌を叩きつけた。 「ラブをどこへやったの!? 答えて!!」 至近距離から睨み付けるせつなの顔を、少女が驚愕の表情で見つめる。戦闘服を身に着けている自分が、さっき全く反応できなかった男の動きを、彼女は生身で見切って避けてみせたのだ。 だが、それも一瞬のこと。すぐに表情を取り繕うと、少女は青白い顔に不敵な笑みを浮かべた。 せつなの掌の下で床がギュッと鈍い音を立て、赤い瞳に怒気を超えた殺気が浮かぶ。今度こそ割って入ろうとするウエスター。が、その足は異変を感じてぴたりと止まった。 突然、二人の横手の壁の真ん中辺りがぐにゃりと歪み、まるで木の洞のような時空の口が開いたのだ。そこから浮かび上がるように現れた人物を見て、せつなの目が大きく見開かれた。 「ラブ……!」 ラブは前のめりになった格好で、緑色の蔦のようなもので拘束されていた。だが、それがすぐに解けて、部屋の中へと放り出される。 せつなは飛び上がるようにしてラブを受け止めると、夢中でその顔を覗き込んだ。 ぐったりと力の抜けた身体。力なく閉じられた目蓋――。 「ラブ! しっかりして、ラブ!」 耳に煩いような自分自身の心臓の音と、締め付けられるような胸苦しさに耐えて、せつなが必死で呼びかける。すると、ラブの睫毛が微かに震え、その目がゆっくりと開かれた。 「せつな……」 「……良かった……!」 ラブを抱き締めるせつなの目から涙が溢れて、ぽろぽろと零れる。 二人の姿を安堵の表情で見つめるウエスター。しかし一瞬の後、彼は慌てて壁に向かって突進した。 だが、ほんの少し遅かった。 せつなとウエスターがラブに気を取られている隙に、蔦がするすると伸びて、少女の身体を絡め取ったのだ。ウエスターの目の前で、少女が時空のトンネルへと連れ去られる。そして彼の手が壁に届いたときには、時空の口は消え失せていて、後には何も残ってはいなかった。 ☆ 淡いグレーの壁と天井で仕切られた、何の変哲もない小さな部屋。仮眠室として使われているという警察組織の一室で、せつなはベッドの隣で小さな椅子に座り、ラブの寝顔をじっと見つめていた。 ナケワメーケを操る少女を止めようとして、自分の意志で彼女に付いて行ったこと。そのアジトが、せつなや彼女が育った軍事養成施設・E棟であったこと。その地下にあった不幸のゲージと、映像として現れたノーザの存在――それだけを何とか話し終えてから、ラブは気絶するように眠ってしまったのだ。 ウエスターはラブの話を聞き終えると、サウラーのところへ相談に行くと言って、厳しい顔つきで出て行った。 ラブの身体には、締め付けられたような跡や、何かで打たれたような痣が無数にあった。 ――何とかここに戻って、あの子を止めなきゃ、って思ったんだけど……。 うつむき加減でそう呟いたラブの顔を思い出す。 今は変身することも出来ないというのに、その想いだけで、映像とはいえあのノーザと渡り合ったのだろうか。 「全く……。無茶し過ぎよ」 眠っているラブの姿がやけに小さく見えて、思わずその顔に指を伸ばして、目の上に掛かった髪をそっと払う。その途端、ラブが小さく口を開けて、弱々しく言葉を吐き出した。 「せつなぁ……」 (えっ?) 思わずドキリと手を止めて、もう一度ラブの顔を見つめる。 その目は閉じられたままだったが、口元がムニャムニャと柔らかく動いて、再び途切れ途切れに言葉を紡いだ。 「大丈夫だよ……せつな……」 ぽかんとするせつなの目の前で、ラブが再びすうすうと寝息を立て始める。 (ひょっとして……寝言?) 不意に可笑しさがこみ上げて来て、せつなは口に手を当てて、クスクスと声を立てずに笑った。 (私がこれだけラブのことを心配して、居ても立ってもいられなかったっていうのに、当のラブは、夢の中でまで私の心配をしてくれてるっていうの……) 口元に当てた手の甲に、ポツリとあたたかな雫が落ちる。それが自分の涙だと気が付くのに、少し時間がかかった。 もう一度手を伸ばして、ラブの布団を掛け直す。前に一度、あゆみにそうしてもらったことを思い出して、布団の上からあやすように、トントン、と優しく叩いた。 (ラブと一緒に居るときの涙は、どうしてこんなに、あたたかいのかしら……) 心の中にぽかりと浮かんだ小さな疑問。その答えが見つからないままに、せつなはラブの寝顔を愛おし気に見つめながら、そっと頬の涙をぬぐった。 ☆ 目蓋の裏に感じる朝の光。そして頬を滑る、柔らかなシーツの肌触り――。 ぼんやりとそんなことを感じて……次の瞬間、せつなは跳ね上がるようにして身体を起こした。 いつの間にか、椅子に座ったままベッドに突っ伏して寝ていたらしい。こんなところで朝まで眠ってしまうなんて、初めての経験だった。 考えてみれば、ラブが心配でこの三日間はほとんど眠っていなかったから、安心して一気に疲れが出たのかもしれない。 ベッドに目をやったせつなが、今度は弾かれたように立ち上がる。そこに寝ているはずのラブの姿は、どこにも無かった。 (まさか、ラブったらまた一人でどこかへ……!?) 咄嗟にそう思った時、どこかから聞き慣れた明るい声が聞こえて来て、せつなは慌てて部屋から走り出た。 声を頼りに進んで行くと、小さなキッチンに辿り着いた。湯気の立つ大きな鍋をかき混ぜている、ラブの後ろ姿が見える。その隣には一人の少年が立っていて、せつなに気付き、照れ臭そうな顔でぺこりとお辞儀をした。その様子を見て、ラブも後ろを振り返る。 「あ、せつな、おはよう。ちょうど良かった、ちょっと手伝って」 「ラブったら。身体の方はもう大丈夫なの?」 「へーきへーき!」 ラブがそう言いながら、左手でガッツポーズを作ろうとして、痛てて……と苦笑いをする。ラブの左腕に特に大きな痣があったことを思い出して、せつなは小さく溜息をつく。そしてラブの隣に歩み寄ると、鍋の中を覗き込んだ。 ふわりと懐かしい香りが、せつなの鼻をくすぐった。たっぷりの汁の中で、細かく切られた具材とお米が、コトコトと音を立てている。 「これ、“おじや”よね? 前に、お母さんに作ってもらったことがあるわ」 「そ。これならみんなで一緒に、あたたかいうちに食べられるでしょ?」 「え? みんな、って……」 首を傾げたせつなが、あ、と小さく声を上げて、そっと隣の部屋を窺う。道場のようなその広い部屋には、せつなの予想以上の人数が集まっていた。ナケワメーケの攻撃を逃れたこの建物もまた、人々の避難所になっていたのだ。 「ここは警察官が寝泊まりも出来る施設だから、食糧も置いてあるって、この子が教えてくれたんだ」 ラブがそう言いながら、鍋の中のものを小皿に取って、それを少年に差し出す。怪訝そうな顔で受け取った少年は、促されるままにそれを口にして、驚いたように目を丸くした。 「こんな料理、初めてだ……。いろんなものが入っているんですね」 少年が、ぼそぼそとした調子で呟くように言う。 「うん。本当は残り物で作る料理なんだけど、これなら食材を無駄なく使えるから、食糧が長持ちするんだ。それに、あたたかいものを食べて身体があたたまると、元気が湧いて来るからね」 「元気……ですか」 「まぁこれは、お母さんの受け売りだけど」 一層低い声になった少年に、ラブが小さく微笑む。そして、「でーきたっ!」とひときわ明るい声で叫ぶと、鍋を持ち上げようとして、痛てて……と再び顔をしかめた。 「あ……俺、運びます」 「ひとりで大丈夫? 結構、重いよ?」 「平気です。力には自信がありますから」 少年がそう言って、ひょい、と鍋を持ち上げる。せつなとラブが食器を持ち、三人は人々が避難している隣の部屋に向かった。 「みんな、お待たせ~! 朝ご飯、持って来たよ~」 ラブが明るい声で呼びかけても、応える者は誰も居なかった。全員が思い思いの場所に座り込み、暗い目をして床の一点を見つめている。 メビウス様が復活する。この襲撃は、メビウス様による制裁である――少女による衝撃の通告を受けて、まだ半日しか経っていない。最初はパニック状態に陥った人々は、今は絶望と虚無感に支配され、全てを諦めて来たるべき時を待っているように、せつなの目には映った。 グッと拳を握り締め、せつながラブの隣から一歩前に進み出る。何か言おうとして口を開き、言うべき言葉が見つからなくて立ちすくんだ、その時。 ラブがおもむろに鍋の蓋を開けると、それを椀によそって、近くにうずくまっている小さな女の子の傍に座り込んだ。 「はい。熱いから、一緒に食べようね」 最初の一匙をすくってフーフーと息を吹きかけてから、ラブがそれを女の子の口元に持っていく。 お腹が空いていたのだろう。戸惑った顔をしながらも素直に口を開けた女の子は、すぐに目を輝かせて叫んだ。 「美味しい!」 すぐに自分でスプーンを握って食べ始めた女の子を横目で見ながら、周囲の子供たちがゴクリと喉を鳴らす。その目の前に、せつながタイミング良くお椀とスプーンを差し出した。 ほどなくして、子供たちの食べっぷりにつられるように、大人たちもスプーンを手にする。しばらくすると、全員が夢中で椀の中身を食べ始めた。 やがて、部屋の中に少しずつざわめきが――人の声が聞こえ始める。子供たちの顔には笑みが見え始め、大人たちの表情も、さっきまでよりも明らかに穏やかなものになっていた。 「ありがとう、せつな。さ、あたしたちも食べよ」 驚いた顔で人々を見回すせつなに、ラブがおじやの入った椀を差し出した。鍋を運び、配膳を手伝ってくれた少年は、二人から少し離れたところに座って、既に猛然と椀の中身をかき込んでいる。 ラブは、自分もスプーンを手に取りながら、せつなだけに聞こえるような、小さな声で言った。 「せつな……心配かけて、ごめんなさい」 「……」 せつなが無言でラブの背中に手をやると、ポンポン、と二回、優しく叩く。その仕草に、ちらりと上目づかいでせつなの顔に目をやると、ラブはフッと小さく顔をほころばせた。 「本当はあの子を止めたかったけど、出来なかった……。だから今はほんの少しでも、みんなに元気になってもらいたいんだ」 「ほんの少しじゃないわ。まだ“元気”とは言い切れないかもしれないけど、大きな変化だと思う」 「そうかな……。もしそうなら、嬉しいな」 ラブはそう言って、食べ始めたばかりのおじやの椀を、大切そうに両手で包んだ。 「ねえ、せつな。あたし、決めたんだ」 相変わらず密やかな、でもさっきより明るい声で、ラブが語りかける。 「“どうせ出来っこない”なんて思わないで、自分の力を信じようって。プリキュアの力に比べれば小さな力かもしれないけど、その力で、やらなきゃいけないことを、あたしが本当にやりたいことを、全力でやろうって。だからあたし、いつか、あの子とも……」 ラブがそう言いかけた時、建物が突然、ズシン、と揺れた。 「様子を見てきますから、皆さんは建物の外に出ないでください!」 せつながテキパキと人々に指示を出してから、既に廊下を走り始めたラブの後を追う。玄関から外に飛び出すと、二人の耳に、ナケワメーケとは明らかに違う怪物の声が飛び込んで来た。 「……まさか、これって!」 せつなが驚きの声を上げて、呻き声が聞こえた方角へ向かって走り出す。そして、そこに立っている化け物の姿に、やっぱり……と唸るように呟いた。 顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。 その巨大な姿の後ろに見えるビルの上に小さな人影を見つけて、せつなが今度こそ絶句する。 紙のように白い顔に苦悶の表情を浮かべて立っているのは、あの少女。その腕に、鋭い棘を持つ暗紫色の茨が巻き付いているのが、せつなの目にはっきりと映った。 ~終~ 第9話:起動!へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/725.html
私を呼んで、愛の言葉で(前編)/一六◆6/pMjwqUTk 「出来たぁ? ブッキー」 「うーん……もうちょっと……」 ラブの言葉にも顔を上げず、真剣そのものといった表情で、祈里がスポイトの先端を見つめている。黄色い液滴が、ポタ、ポタ、ポタ、と三滴落ちて、平皿に入れられたアロマオイルがきれいな山吹色に染まった。 「出来たー! これをペーパーに染み込ませて、ケースに入れればいいのよね?」 そう言いながら手際よく作業を進める手元を、せつなが興味津々で覗き込む。 「へぇ。アロマって美希がよく作ってくれるけど、ブッキーも上手なのね」 「ううん、わたしはこれが二回目。美希ちゃんに教わって、前に一回作ったことがあるだけだよ。ハイ、これで完成」 祈里が差し出した出来たてのアロマにそっと顔を近づけてから、せつなが柔らかな笑顔になる。 「いい香り。何だか心が安らぐみたい」 「ホント、いい香り~。凄いね、ブッキー。この前と全くおんなじ香りだよ。これならきっと、喜んでくれるねっ」 ラブも、せつなの隣から鼻をひくひくさせて香りを楽しんでから、満面の笑顔で親指をぐっと立てた。 今日は土曜日だが、ミユキの都合でダンスレッスンはお休み。おまけに桃園家では、圭太郎はゴルフ、あゆみはパートで両親共に不在だ。 昨日の夜にそのことがわかったとき、だったら明日はタルトをねぎらう日にしようよ!とラブが言い出して、すぐさま美希と祈里に連絡を取ったのだった。 このところ、シフォンがインフィニティになる頻度が高まり、タルトはずっとクローバーボックスを回すのに掛かりきりだった。先日クローバーボックスが行方不明になりかけた教訓から、夜の間だけは、ラブとせつなも含めた三人で時間を区切り、深刻な睡眠不足にはならないようにしたものの、やっぱりタルトの負担が大きなことに変わりは無い。 せめて少しでもその労をねぎらおうと、心ばかりの贈り物やご馳走を用意し、あとは四人でシフォンの相手をして、タルトには夕方までゆっくり休んでもらおう、という計画だ。 そこで、まずは準備の時間を稼ぐため、ラブがタルトにカオルちゃんの店までお使いを頼んだ。カオルちゃんにも、細かい事情は話せないまでも密かに協力を頼み、お使いの時間を出来るだけ引き延ばしてもらうことになっていた。 「良かった。いつでも作ってあげるってタルトちゃんと約束したのに、結局あれから、一度も作ったことなかったから……」 手の中の小さな陶器を愛おしそうに見つめながら、祈里が呟く。その横顔を、せつなも微笑みながら見守った。 初めてこのアロマを作ったとき、祈里はまだタルトのことを、『タルトさん』と“さん”付けで呼んでいたらしい。フェレットが苦手だったせいで、フェレットそっくりのタルトとも、なかなか打ち解けられなかった――そう聞いたときには、祈里にも苦手な動物がいたという事実に、それはそれは驚いたものだ。 自分だって、最初から祈里と『せつなちゃん』『ブッキー』と呼び合う仲だったわけではない。だからこそ、初めてタルトと心を通わせた思い出の品であるというこのアロマへの祈里の想いは、せつなにもよくわかる気がした。 これで祈里からの贈り物も完成。プレゼント兼お昼のパーティー用の、ラブのハンバーグとせつなのコロッケも、あとは焼くだけ、揚げるだけで、既に準備は完了している。 残るひとつは――。 「ところで、美希のほうは上手くいってるのかしら」 「そうね。何だかヤケに静かだし、ちょっと心配だよね」 せつなの言葉に、どうやら同じことを考えていたらしい祈里も心配そうな顔になった。 ラブ、せつな、祈里の三人はラブの部屋に居るのだが、美希は今、シフォンと一緒にせつなの部屋に居るはずだ。最初こそ、シフォンがキュア~!とはしゃぐ声と、それをたしなめる美希の声が聞こえていたのだが、今は何だかしーんとして、物音一つ聞こえてこない。 「そうだね。タルトが帰って来ても困るし、ちょっと様子を見にいこっか」 ラブがそう言って立ち上がる。続いてせつなと祈里が立ち上がったのとほぼ同時に、カチャリとドアが開き、シフォンを抱いた美希が、何だか疲れた顔をして部屋に入ってきた。 私を呼んで、愛の言葉で(前編) 「どう? 美希たん。うまくいきそう?」 ちょうど良かった、という笑顔で問いかけるラブに、美希が力なくかぶりを振る。 「それが……。シフォン、ちゃんと『タルト』って言葉は喋ってくれるんだけど、タルトのことは、呼んでくれそうにないのよ」 「……へ??」 「それ、どういう意味? 美希ちゃん」 頭の上にクエスチョンマークが見えるような顔で首をひねるラブ。祈里も不思議そうに、美希とシフォンの顔を見比べている。 そんな中でシフォンだけが、美希の腕の中で、キュア~!と機嫌の良さそうな声を上げた。どうやら二人の表情が面白かったらしい。 美希が考えた贈り物は、シフォンにタルトの名前を呼ばせることだった。 キルンが現れ、シフォンが片言の言葉を喋るようになったとき、彼女はすぐに、ラブたち三人を名前で呼ぶようになった。その後でプリキュアになり、ラブの家で一緒に暮らし始めたせつなのことも、最初から名前で呼んでいた。しかし、何故か一番付き合いが長いタルトだけは、いつまで経っても名前で呼ぼうとしないまま、現在に至っている。 最初はそのことにショックを受け、押し入れに隠れてふて寝するほど落ち込んでいたタルトだったが、今ではすっかり諦めたのか、そのことを口に出すこともほとんどない。でも、シフォンのためにあんなに一生懸命なタルトが、もしもシフォンに名前を呼んでもらえたらどんなに喜ぶか――それは四人とも、ありありと想像することができた。 美希は、以前シフォンと仲良くなったときに、すっかり育児にハマって買い求めたという育児書を何冊も持って来て、「アタシ、完璧に教えるわ!」と張り切っていたのだが……。 「口で説明するより、見てもらった方が早いわね」 そう言って、シフォンを抱いたままラブのベッドに腰掛けた美希は、シフォンの身体を自分の方に向けて、その無垢な瞳を優しく覗き込んだ。 「いい? シフォン。もう一回やるわよ。タ・ル・ト」 「たーるーとー!」 「おおっ! ちゃんと言えてるじゃん!」 ラブが目を輝かせて、シフォンの頭を撫でる。 「問題はこの後、ってこと?」 ラブとは対照的に冷静な声で問いかけるせつなに、美希は小さく頷いてリンクルンを取り出した。 あらかじめ撮影しておいたタルトの画像を、シフォンに見せる。 「じゃあ、シフォン。これは誰?」 「……プリ?」 リンクルンを見つめていたシフォンが、おもむろに首を傾げたのを見て、ラブも祈里も、思わず驚きの声を上げた。 「えーっ!? シフォン、タルトだよぉ。どうしてわからないのっ!?」 ラブが、美希の膝の上からシフォンを抱き上げて、肩を揺さぶる。 「ちょっと、ラブちゃん! ……ねえ、シフォンちゃん。シフォンちゃんとずーっと一緒に居るタルトちゃんのこと、ちゃんとわかってるよね?」 ラブの剣幕に泣き出しそうになったシフォンを、祈里が引き取ってあやしながら語りかける。 シフォンは、プリ~……と不満げに呟くと、祈里の視線から、ぷいと顔をそむけた。 仕方なく、祈里はシフォンをラブのベッドの上におろした。彼女のお気に入りのクマのぬいぐるみを、その隣に座らせる。するとシフォンはあっさりと機嫌を直し、ぬいぐるみで遊び始めた。 「要するに、『タルト』って言葉は言えるけど、それがタルトのことだとはわかっていないってこと?」 流石に心配そうな顔をするせつなに、美希は、そうなのかな……と自信なさげに呟く。それを聞いて、ラブがまた、信じられない、という調子で声を上げた。 「でもさぁ! シフォン、あたしたちの名前は最初っからちゃんとわかってたじゃない」 「うん、そうだよね。喋り始めたとき、最初にわたしの名前を呼んでくれたの、よく覚えてるもの」 祈里も当惑したように、小さく頷く。 「そうよね。それなのに、どうしてタルトの名前だけ、わからないんだろう……」 美希がお手上げという表情で、ぼそりと呟いた、そのとき。 「あ……。そうか、もしかして……」 三人のやり取りをじっと聞いていたせつなが、何かに気が付いた様子で、顔を上げた。 「ねえ、ブッキー。シフォンはブッキーのこと、『いのり』って呼ぶわよね。それって、ブッキーがシフォンに自分の名前を教えたの?」 「えっと……どうだったかな。特に教えた記憶もないけど、最初からそう呼ばれてたと思うよ?」 「ラブも美希も『ブッキー』って呼ぶのに、シフォンにそう呼ばれたことは無いのよね?」 「そう言えば……」 畳みかけるようなせつなの質問に、祈里が目を見開く。 「美希もそう。ラブは普段、美希のことを『美希たん』って呼ぶし、ブッキーは『美希ちゃん』でしょ? でもシフォンはいつも『みき』って呼んでる。もし、ラブかブッキーが呼んでいるのを真似しているんだとしたら、どちらかの呼び方になりそうなものだと思うけど」 「そう言われれば、そうね。つまり……えっと、何が言いたいの? せつな」 少しの間、虚空を睨んで考えていた美希が、降参、という顔でせつなの顔を覗き込んだ。 せつなは、まだ少しも腑に落ちない様子の仲間たちを見回してから、少し辛そうな顔で下を向いた。そのまましばらく膝の上に置かれた自分の手を見つめてから、意を決したように、ぽつぽつと説明を始める。 「つまりシフォンは、みんなの真似をして人の名前を呼んでいるわけじゃないってことよ。周りの会話を聞いて名前を覚えたんじゃなくて、もしかしたら……元々、知っていたのかもしれない」 「元々、知っていた?」 どういう意味よ、と言いかけて、今度は美希がハッとする。 「つまり……シフォンの頭の中には、元々アタシたちの名前がデータとして入っていたってこと? つまり、その……無限メモリーの」 「私にも、はっきりしたことはわからない。シフォン自身も、その辺のことは無意識のような気がするし。でもそう考えると、シフォンがみんなを呼ぶときの呼び方に、一応の説明は付くわ」 言いにくそうに言葉を発した美希に、せつなが低い声で答える。それを聞いて、祈里が不思議そうに小首を傾げた。 「でも、そのことと、シフォンちゃんがタルトちゃんの名前を呼ばないことには、どんな関係があるの? せつなちゃん」 「思い出してみて。私たちがタルトとシフォンを追ってスウィーツ王国に行ったとき、タルトが自分の名前のことを話していたでしょう?」 せつなにそう言われて、今度はラブが首をひねる。 「そう言えばそうだったね。えーっと……タルト・フ・ハンバーグ……みたいな」 「ラブちゃん、ハンバーグじゃなくて、フォンボルグだったと思う」 「あれぇ……そうだっけ」 祈里にたしなめられて、頭を掻くラブ。美希はそれを苦笑いで見やってから、改めてせつなに向き直る。 「確か、タルト自身も長すぎて覚えきれてないって感じだったよね」 「ええ。おそらくシフォンは、タルトの名前が頭に入ってはいるけれど、それを喋ることは、まだ出来ないんじゃないかしら。あまりにも長くて複雑だから、まだ片言しか喋れないシフォンには無理なのかも」 せつなの説明に、部屋の中が一瞬、しんと静まり返った。 「なるほどね。タルトちゃんの顔と名前が一致していないわけじゃなくて……」 「あんまり長い名前だから、それでいつも首を傾げているのかもしれないってことなのね」 少し考えてから、ようやく合点がいったという顔で頷く美希と祈里。あの頃、タルトに名前を訊かれるたびに、プリ?と無邪気に首を傾げていたシフォンの顔が、頭をよぎる。 シフォンのもうひとつの姿と言われている、無限メモリー・インフィニティ。覚醒するとシフォンとしての意識は消えてしまうが、普段のシフォンも、数々の不思議な力を持っている。これまでは、シフォンの超能力、と片付けていたその能力も、おそらくインフィニティとしての力の一部が顕れたものなのだろう。 せつなの仮説には説得力があるし、そう考えれば確かに説明は付く。しかし、それが当たっているとすると――。 「本当にそうだとすると、シフォンがもっと大きくなるまでは、タルトの名前を呼ばせるのは難しそうね」 せつなの言葉に、二人とも少し寂しそうな顔で頷く。 「そっか……。シフォンのメモリーが完璧なのが、裏目に出たってわけね」 「それにタルトちゃんだって、自分が覚えきれていないような長い名前で呼ばれても、ただ面喰っちゃうだけだよね」 無邪気に遊ぶシフォンとは裏腹に、部屋の空気が重苦しくなる。それに気付いて、美希が慌てて無理矢理に笑顔を作った。 「あ……みんな、ゴメンね~。それじゃあ仕方ないから、アタシはタルトに何か別の贈り物を……」 「大丈夫だよ!」 美希の言葉を遮って聞こえてきた、力強く明るい声に、三人が思わず顔を上げる。そこには、場違いなほど明るい表情でニコリと微笑む、ラブの顔があった。 「シフォンは、タルトが大好きなんだもん。そのタルトの名前を、呼べないわけないよ!タルトも覚えていないような長い名前じゃなくて、あたしたちが呼んでるのと同じ、『タルト』って名前をさ」 「だから、それが無理なんだって話をしてるんじゃないの」 少々呆れた口調の美希に、それでもラブは穏やかな表情で、ううん、と首を横に振る。 「大丈夫だよ、美希たん。あたしにいい考えがあるの」 そう言って、ラブはそのキラリと輝く瞳を、せつなに向けた。 「せつな、お願い。アカルンに頼んで、あたしをスウィーツ王国に連れて行って」 「え……それは構わないけど、どうするつもりなの? ラブ」 小首を傾げてラブと美希のやり取りを眺めていたせつなが、その言葉を聞いて、ますます不思議そうな顔をする。 「詳しいことは、行ってからね。美希たんとブッキーは、ここで待ってて。すぐに帰ってくるから、シフォンのことをお願い」 相変わらず笑顔のラブに、美希と祈里も、訳がわからないという表情で顔を見合わせてから、うん、と頷いたのだった。 ~前編・終~ 競作46へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/403.html
「ラブ!大変よ!起きて!!」 深夜、ラブの部屋にパジャマ姿で飛び込んでくるせつな。 「ん~なに~こんな時間に?」 「空の様子が変なの!きっとラビリンスの仕業に違いないわ!」 「ええっ!」 熟睡していた所を叩き起こされる羽目になったラブだったが、 せつなの真剣な表情とラビリンス、という言葉に反応して 慌てて飛び起きた。 「わかった、とにかく外に出よう……って寒っ!」 そのまま勢いでベランダに出たラブは、 部屋の中との温度差にぶるっと身震い。 11月に入って急激に冷え込んだこともあって、 パジャマ一つでは流石に外に出るには辛い。 「ラブ、大丈夫?」 追って部屋から出てきたせつなが、ラブにベストを掛けてあげる。 見れば、せつなも同じくベストを羽織っている。 「ありがと、せつな、ところで、ラビリンスって、どこ?」 「ほら、これよ!今空から降ってきてるこの白いもの!」 言われて空を見上げるラブ。 そしてすぐに、せつなの言葉の意味に気づく。 天から舞い落ちる白い粉のようなそれの名は。 「……ああ、これはね、雪って言うんだ」 「雪?」 「うん、雨とか雷とかと同じで、自然現象の一つ」 「……じゃあ、ラビリンスの仕業じゃないの?」 せつなの言葉に、ラブは首を縦に振る。 「うん……そっか、せつなは初めてみるんだったね。 せつな、ちょっと手を出してみて」 「こう?」 ラブの言葉に従って手を前に差し出すせつな。 その手の平に、一片の雪が舞い降りる。 「キャッ!」 その瞬間の感覚に、思わず声を上げるせつな。 「冷たいでしょ、雪っていうのは、氷の結晶なんだ。 次はもっと近くで見てみて。 せつなの視力なら、ちゃんと見れると思うよ」 「近くでって……こう?」 手の平に落ち続ける雪を凝視してみるせつな。 「わあ……」 そこに見えたのは、幾何学模様のように正確に作られた雪の本来の姿。 次々に手の平に落ちる雪が、一瞬その姿を見せては せつなの体温に耐えられずに溶けて消えてゆく。 「きれいね……これが……雪?」 「そう、今降っているのは、全部これ」 「なんだか……すごいわ」 空を見上げて関心したように頷くせつな。 そんなせつなを微笑ましく見守っていたラブだったが、気温の低さにブルっと身震い。 「それにしても、もう雪かあ……そりゃ寒くもなるよねー。 せつな、そろそろ部屋に戻ろう、風邪引いちゃうよ?」 隣の少女にそう声を掛けたラブだったが、せつなは首を横に振る。 「私、もうちょっと雪を見ていたいな」 「ええっ、でもベランダは寒いよ?」 「うん、だからあとちょっとだけなら、いいでしょ……くしゅん!」 ねだる言葉を口に出すと同時にくしゃみをしたせつなに、 ラブはほら言わんこっちゃ無い、と苦笑。 そして、せつなの後ろから、丁度抱きすくめるような形で覆いかぶさった。 「わ、ラブ!?」 「全く仕方ないなあ……ね、こうすれば、ちょっとは暖かいでしょ」 背中越しに伝わるラブの体の感触と、回された腕、 そこから伝わる彼女の体温が、せつなの体に染み込んでくる。 「……うん、暖かいわ」 そう応えると、回された腕に自分の腕をそっと重ねるせつな。 「もっとも、暖かいのは触れてる場所だけじゃないみたいだけど」 「え?」 「だって……ほら」 言いながら首だけで後ろを向くせつな。 その目に映るのは、真っ赤に染まったラブの顔。 「ラブがそんなに真っ赤な顔してるから、私、熱いくらいよ」 笑いながら言うせつなの指摘に、ラブは赤い顔を更に紅潮させる。 「だ、だって、これはね!せつなを抱きしめてるからこっちも暖かいとか それだけじゃなくて、せつな柔らかいから抱き心地いいなーとか そんな風に思っちゃうからで……何を言ってるんだかあたしは。 とにかく、好きな人を抱きしめてるんだから仕方ないじゃない! ……あ」 寒さとこの状態、それにせつなの指摘。 その三つが合わさってつい口が滑ってしまった。 そう思ったラブの顔が更に熱くなる。 しかし、 「……………………」 その言葉をストレートにぶつけられたせつなの顔も赤くなっていた。 「せつなも充分、赤いよ?」 「仕方ないでしょ!そんなこと言われたら誰だってこんな風になるじゃない!」 「誰だって、っていうのは違うかな」 「え?」 「あたし、せつなにしかそういうこと言わないし」 「……………………っ」 今度はラブの言葉で、せつなの顔が更に紅潮する。 「わはーっ、こんだけ熱ければもう暫くここで雪を見ててもいいかな。 ね、せつな?」 「知らないわよ!……だいたい、いつもそんなこと言ってくれたことないのに どうしてこんな時に限ってそういう台詞が出てくるのよ?」 「んーと……雪の日ってなんだかロマンチックな雰囲気になるとか、 そういうものだって聞いたことあるし」 「このやり取りのどこがロマンチックなのよ!」 「えっとぉ……それは……ゴメンなさい」 先ほどまで寒がっていたのはどこへやら。 雪の降るベランダで、寒さを忘れた二人のやり取りは暫く続いたのだった。